現在の宇陀市菟田野から宇陀市大宇陀にあたる「菟田の」には、数多くの採掘坑跡があります(図26)。ほとんどが明治期以降、水銀の需要が増えてきたことに伴う開発坑だと考えられます。古い時代に採掘されていたり、辰砂の露頭があったりするなど、何らかの兆候があった場所を掘り進めたものと推測されます。現在では入り口が自然崩落するなど、採掘坑跡であることさえ分からないものが多くあります。
ここでは、「奈良県宇陀郡大和水銀鉱床地域における水銀の分布、態様について」(1969(昭和44)年 上野三義、加藤甲壬 著)に記された鉱山(鉱床)について、2025年現在の状況を記しておきます(表2)。
図26 「菟田の」に広がる採掘坑跡
出典 : 産総研地質調査総合センター『奈良県宇陀郡大和水銀鉱床地域における水銀の分布、態様について』(一部改編)
出典 : 産総研地質調査総合センター『奈良県宇陀郡大和水銀鉱床地域における水銀の分布、態様について』(一部改編)
※ 鉱山の所在地は、それぞれ個人の土地ですので無断立ち入りは遠慮ください

表2 : 鉱山(鉱床)の2025年現在の状況
図27 東和鉱山(菟田野見田・大神)
図28 入谷鉱山(菟田野入谷)
図29 入谷鉱山(菟田野入谷)坑道内部
図30 神戸鉱山(大宇陀本郷) 入り口
図31 神戸鉱山(大宇陀本郷) 坑道内部
さらに、菟田野入谷に「風穴」と呼ばれている場所があり、古代から採掘坑と伝えられています(図32、33)。入り口から5mほど横穴があり、その先は水没しています。傍らには、「龍生大明神」と刻まれた石柱が建っています。ここに投げ入れた籾殻が約2㎞離れた家の井戸に浮かび上がったという伝承もあります。
図32 風穴 奥から入り口に向かって
図33 龍生大明神 石柱